遠隔医療の利点と欠点、今後の展望

遠隔医療とは、コンピュータ、通信機器、ソフトウェアなどの情報通信技術(IT)を使用して、遠く離れた場所で臨床ケアを提供することだと定義できます。
プライマリケア相談、理学療法、心理療法、さらにはいくつかの緊急サービスなど幅広い分野にて付加価値を付けられます。

実はOECD諸国ではコロナのパンデミック以前から実は何らかの形で遠隔医療を提供(もしくは研究、発展)しているケースがすでにありましたが、近ごろのパンデミックでさらにその技術や精度が向上してきています。

ほとんどのOECD諸国では以前から何らかの形で遠隔医療が利用されているものの、医療を取り巻く法律や政策などに大きく左右されておりその提供範囲は限定的でした。

医療従事者と患者の参加資格や、伝統的な対面診療との精度の差などまだまだ遠隔医療に対する議論の余地があります。

また、遠隔医療の提供方法(ビデオチャットなどを使用したリアルタイム方式非同期方式、または遠隔監視によるものなど)も種類によってコスト・診療精度面ともに差が開きます。

現在のところはまだまだ小規模なプログラムがほとんどであり、特定の専門分野や健康上の問題に焦点を当てているケースがほとんどで、医療業界全体の展望を左右するほどのものにはまだまだ至っておりません。

目次

遠隔医療の利点

まず、遠隔医療の利点は何があるか考えてみましょう。

① 感染症に罹患している患者の状態を遠隔で診察できる(感染拡大速度を和らげる
② メンタルヘルス治療や軽度感染症の評価など、トリアージができる
③ 処方箋の更新や処方薬の効き目の確認など軽度なことが容易にできる
④ 身体的・物理的理由などで医療施設に直接通うことができない状況で有用
⑤ 入院期間の短縮につながる可能性がある
⑥ 低コストである
⑦ 病院に行かずに済むため、仕事や育児などへの影響が最小限に抑えられる
⑧ 病気の予防、早期発見に役立つ可能性がある
⑨ 結果として健康寿命が延びる可能性がある
⑩ キャッシュレス決済がより浸透する
⑪ より多くの患者の診察が可能
⑫ 医師の負担軽減

などなど、いくらでも列挙できてしまいますし、どれも大きな利点です。

特に今回のコロナ騒動を鑑みると、感染拡大の速度を和らげる効果や病気の予防・早期発見などはうれしい利点となります。

遠隔医療の欠点

「医療」を遠隔で提供する以上、潜在的な欠点も存在します。

① 保険の適用範囲が定まっていない
② 法律が整備されていない
③ 個人情報、診療情報などのセキュリティ問題(ハッキングの危険性など)
④ 対面診療よりも精度が劣る(見落とし、ケアの遅延の可能性)
⑤ ライセンス問題(特に海外では、州などによって薬のライセンスや法律が変わってしまうので、患者の住んでいる地域によって処方薬が変わることがある)
⑥ 技術的懸念(接続状況などが悪い場合、質の高い遠隔医療の提供は困難となる) 
⑦ 聴診、触診、血液検査などができない。
⑧ 設備の使いこなしを高齢者ができるかという不安が残る

などなど、課題は山積しているのが現状です。

特に検査ができない部分に関しては、セッション中の患者の自己申告に頼る必要があり、その数少ない情報をもとに診察をする以上、重要な症状の取りこぼしの可能性が否めません。その場合、賠償などの責任問題にも発展する可能性があるため、いっそう慎重になってしまう要因と言えます。

今後の遠隔医療の展望

以上の利点と欠点を踏まえた上で今後の遠隔医療の取入れ方を考察すると、

① 初診患者は適切な医療機関の案内や救急車利用の推奨などトリアージ的な範囲に収める
② かかりつけ医が現病歴や既往歴など患者のバックグラウンドを把握している場合にのみ積極的に取り入れる
③ 心電図やレントゲン写真などの伝送等データに基づいたセカンドオピニオンでの活用
④ 訪問医療(在宅医療)の延長線上(フォロー)としての活用

などが比較的低リスクで活用実績が見込めるのではないでしょうか。

もちろん、今後さらに法整備や保険整備、技術整備が進んでいき、より安心した遠隔医療の提供ができるようになっていくことは間違いないと言えるので、取入れ方や利用実績もどんどんとスケールアップしていくと考えられます。

ここ数か月で多くの遠隔医療サービスが実現可能であるだけでなく迅速に実装・拡張されており、その有効性が明確に実証されてきています。

同時に、現状の法律・保険制度の限界も見えてきました。

外科的フォローアップや出生前ケアなど医療サービスの大部分は遠隔医療では行えませんから、引き続き対面ケアは欠かせないものです。しかし、可能な範囲を遠隔でカバーしていくことで医療者、患者双方に利点が生まれ、大切な医療資源の温存をしつつ、健康な暮らしをサポートできるのであれば、この上なく明るい未来になると思います。

遠隔医療は、一つのターニングポイントになっていることは間違いないのではないでしょうか。