スーパーやコンビニで買い物をすれば無料で付いてきたレジ袋。
使用後も捨てることなく折り畳んで取っておき、ゴミを出すときなどに役立てていた人も多いのではないだろうか。
我が家も例外では無く、飼っているペットのゴミや排水溝のゴミなど漏れ出て欲しくない汚物を包んだり、車の中のミニゴミ箱用として利用したりと、有効利用していたつもりだ。
日本のプラスチック業界は特に優秀であり、極限の薄さと丈夫さを兼ね備えた素晴らしいプラスチック製品だからこそ、「単なるレジ袋」としてだけで終わることなく、こうして各家庭でのニーズに応えてくれていたのがレジ袋では無かろうか。
そこに、「レジ袋有料化に向けた取組についてのお願い」という通知が令和2年2月に、財務省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・環境省などの関係各課・各担当室が連名で各関係団体宛てに発信された。
令和2年7月1日から全国で一律にプラスチック製買物袋の有料化を開始するというものだ。
(通知より一部抜粋)
プラスチックが短期間で経済社会に浸透し、我々の生活に利便性と恩恵をもたらしてきた一方で、資源・廃棄物制約や海洋ゴミ問題、地球温暖化といった、地球規模の課題が深刻さを増しております。
こうした背景を踏まえ、プラスチックの過剰な使用の抑制を進めていくための取り組みの一環として、プラスチック製買物袋の有料化を通じて消費者のライフスタイルの変革を促すため、(中略)、令和2年7月1日から全国で一律にプラスチック製買物袋の有料化を開始いたします。
こうしてレジ袋削減を皮切りに、プラスチック製ストローの紙製への切り替えやトレーの紙製への切り替えなど、さらにプラスチックを排除する動きが加速している。
一見、この取り組みは「地球に優しい」かもしれないのだが、果たして本当にこうしたプラスチック製品は石油の無駄遣いで、環境を悪くしているのかー
今回は、レジ袋やストローの製作に携わりプラスチックに精通した国内の会社2社を取材させていただき、プラスチックと環境問題について調査した。
プラスチックと石油資源について
まずプラスチック製品を語る上で知っておかなければならないのは、石油資源の活用方法の全体像である。
プラスチックは石油資源を使って作るのは既にご存知の通りだ。
しかし、石油全体の約何%がプラスチック製品に使われているのかご存知だろうか。
「プラスチック20のはてな」にわかりやすい説明があった。
プラスチックは石油をどれくらい消費している?
プラスチック生産に使われる原油は、わずか3%(2018年)
プラスチックのリサイクル20のはてな「プラスチックは石油をどれくらい消費している?」より
日本では、原油を精製して得られるナフサから石油化学製品を作ります。
2018年に消費されたナフサの量は約4,346万キロリットル(質量換算すると約3,042万トン)です。内訳は、日本が輸入した原油を精製して得られたナフサが1,645万キロリットル、ナフサ単独で輸入した量が2,702万キロリットルです。この中から1,067万トンのプラスチックが製造されました。
ナフサ4,346万キロリットルは、原油4億7千万キロリットルから得られます。したがって、プラスチックの生産に使われた原油の割合は、約3%となります。
思ったよりも少ないと感じないだろうか。
そもそも20世紀の初めの頃は、石油からプラスチックや合成ゴムなどを作るための必要な成分だけを取り出して残りは燃やしていたそうだ。その後、石油化学が発展し、現在は石油に含有されるほとんどの成分が利用できるようになり、レジ袋などもこのような残りの成分から作れるようになったと言う。
要するに、レジ袋はこのような残りの成分から作られるようになったものであり、使い道が無くて価値のない成分を利用して作られたものなのだ。
上記、黄色いハイライトを施した部分について、レジ袋製作にも携わるA社に事実関係を問い合わせたところ、担当者から「事実である」との回答を頂いた。
※この度の取材に応じてくださったレジ袋製作に携わるA社は、『近頃の情勢で色々なメディアに取り上げられることは光栄なことですが、その分反響の問合せも多く少人数の会社で対応するには少々限界を感じている状況』のため、会社名は非公表での掲載を条件としているため、仮に「A社」とだけ記す。
さらには、
「上記が事実であれば、レジ袋を作るために石油を使用しているわけでは無いのならレジ袋を減らしても石油の節約には繋がらないのでは」と言う質問に関してA社担当者は、
仰る通り石油の節約にはならないと思われます。
とのことであった。
さらに、年間3億本と国内で生産されるストローの約半分が作られるシバセ工業株式会社(岡山県浅口市)の磯田拓也社長自ら、マネーブリスの取材にこう答える。
石油の無駄遣いには全くあたらないと考えます。
プラスチックは、主に石油から作られますが、石油(原油)の3%くらいしかプラスチックになっていません。
Ace(筆者)さんは、レジ袋やストローを1ヶ月にどれくらい使いますか?
多分、どんなに多くても30枚(本)くらいでしょうか。
レジ袋5g ストロー1g とすると6g×30本=180gくらいが1ヶ月の使用量だと思います。
車は乗られますか?私は、1ヶ月に1回くらい給油しますので、ガソリンを40Lくらい使います。
ガソリンの比重が0.75とすると、大体30kgくらいを消費してCO2に変えています。
ガソリンもプラスチックも石油から出来ていますが、1ヶ月にガソリンで30kg使って、レジ袋とストローで180g どちらが石油を使っていると思いますか?ただ、どちらも無駄ではないのです。どちらも必要だから使っているのです。無駄使いはしていないはずです。
石油の3%しかプラスチックになっていないわけで、そのプラスチックの中で、レジ袋やストローなどは1%にも満たない使用量です。したがって、ストローやレジ袋をやめても石油の消費には何も影響はしないです。
このように、プラスチック加工に携わる2社が共通して「石油の無駄遣いにはあたらない」との認識を示した。
海洋プラスチック問題
2015年、中米コスタリカ沖でテキサスA&M大学の海洋生物学調査チームが、鼻にストローが刺さったウミガメ(オリーブヒメウミガメ)を救助した際の映像が話題となり、その衝撃的な映像に各所で反響があった。
そこからウミガメや海洋生物を救うため、各国でプラ製ストロー廃止運動が呼び掛けられ、紙ストローが注目を集め始めたのは記憶に新しい。
と同時に、海洋に漂うプラスチックゴミがクローズアップされ、アンチプラスチック運動に拍車がかかるわけだ。
しかし、環境省の漂着ゴミモニタリング調査結果を見ると、漁網やロープが高い割合を占めており、個数ベースでは飲料用ボトルが多くなる。同調査結果によるとポリ袋は全体の1%未満となる。
2019年1月23日の北海道新聞の紙面に下記のような記述があった。
毎年数万トンのプラスチックが海へ流れ込んでいるはずだが、実際に見つかる量は1%にも満たない。99%以上のプラスチックが海で消えている。原因は、沿岸に堆積している、ナノサイズに小さくなっているなど、さまざま考えられる。
北海道新聞(2019年1月23日 19面) 中川聡・京都大大学院農学研究員准教授(微生物生態学)
プランクトンサイズのプラスチックを、海洋生物が食べてしまっている可能性も高い。マイクロプラスチックは汚染物質を吸着するため、食物連鎖を通してわれわれの健康に影響を及ぼす可能性もある。
一方、海底下には天文学的な数の微生物が存在し、メタンハイドレートのようなエネルギー資源の形成をはじめ、地球規模の物質循環や気候・地殻変動との関連が指摘されている。マイクロプラスチックはこれらにどのような影響があるか分からない。
プラスチックには比重が軽いものと重いものがある。海底下の微生物に対しては、比重が大きく海底に沈むプラスチックを適切に処理し、海に出ないようにすることが必要だ。ストローの原材料であるポリプロピレンは軽くて海中を漂う。これらの軽いプラ製品だけを減らしても、効果は小さい。
この海洋プラスチック問題について、プラスチックを製造する業界の方々はどう考えているのか尋ねてみた。
シバセ工業株式会社・磯田社長:
新興国が人口が増えて大量消費となり、大量廃棄となった結果、ごみ処理が追いつかず、と言うよりほとんどごみ処理のインフラを建設していないから、ごみは山や川に捨てるしかなく、川に捨てたごみは、海へ流れ出して、海流に乗って世界をめぐります。
文献(※1)では、海洋プラスチックごみの9割は、川から海へ流れ出しているそうです。
人間は川にごみを捨ててきました。これは日本も同じです。川に捨てると流れて見えなくなるので、捨てた罪悪感がなくなります。だから、どんどん川に捨てて・・
プラスチックごみは、分解しないので、川から海へ流れ出していつまでも残ってしまいます。私の考えは、海洋プラスチックごみ問題の対策は、プラスチックの使用を減らすことでなく、ごみ処理場を増やすことです。
人間の排泄物も下水処理場がなければ、大変なことになります。ごみも当然大量に出ることはわかっているので、ごみを処理する施設をたくさん作ることが、海洋プラスチックの問題を減らすことになります。
A社の担当者は、「海洋プラスチックごみ問題に関しては形状や材質の問題ではなく、捨てる人の問題だと思います」と話す。
さらに同担当者は「ポイ捨てレベルを含めた投棄ごみがレジ袋やストローをスタートにしてプラスチック業界を潰そうとしています。そこを理解していただきたいです。」と悲痛な思いを吐露した。
日本のごみ処理技術
磯田社長がメンションした「日本のごみ処理技術」に関してだが、2020年7月28日に日本経済新聞の紙面にて日本のごみ発電技術の輸出が増加傾向にあると報じられている。
ごみ発電、海外で受注倍増
日立造船、英でプラント12件 埋め立て規制が追い風ごみ焼却発電プラントは、ごみを燃やした際の廃熱を利用してタービンを回し発電する。日本企業が技術力で先行する分野だ。
経済協力開発機構(OECD)によると、ごみ発電の技術で先行する日本は、埋め立て比率が1%未満。対して英国は14%、フランスは20%、イタリアは23%と高い。
日本経済新聞「ごみ発電、海外で受注倍増 日立造船がAIで安定焼却」
日本にはごみ焼却時に発生するエネルギーを電力として供給する技術(バイオマス発電)があり、規模は小さいがゴミが排出される限り安定的に発電できる再生エネルギーだと言う。
そしてごみ発電は太陽光や風力などの再生エネルギーのように天候や時間などで発電量がブレることが無い。
再生可能エネルギーの比率が6割を超えるスウェーデンは、国内で発生するごみの約半分を焼却して発電に利用し、余熱も暖房用などに家庭に供給している。肥料なぢにも使うため自国のごみでは足らず、近隣諸国からごみを輸入している。
(日本経済新聞「ごみ発電、海外で受注倍増 日立造船がAIで安定焼却」)
食材や汚れたプラスチックは、洗う水や労力をかけるより、元は石油ですので燃料としてのサーマルリサイクルが適しています。燃料にして熱エネルギーで発電すれば、プラスチックは灰になってごみとしての体積が小さくなり、埋め立て処分場も小さくできますし、電気にリサイクルすることで、あらゆる分野で電気は使用できます。
(シバセ工業・磯田社長)
スウェーデンもそうだが、我々もごみと比較的上手に共存しているように感じる。
こういった技術を世界に広め、国単位だけでなく地球規模でごみの正しい処分方法が広まるのではないだろうか。
かつてのMADE IN JAPAN同様、日本の知力と技術力を世界に発信していく時代に再突入している。
少なくとも、多くの新興国では必要される技術なはずである。
プラスチックを正しく使って正しく処分する
プラスチックが誕生し、私たちの生活をさらに豊かなものにしてくれた。
だが、使用後の処分方法によっては私たちのHOMEである地球や共に住む動物たちに悪影響を与えてしまっていることも確かだ。
プラスチックを扱う会社への取材を通して、私たち消費者側の理解の少なさを痛感させられたように思う。
表面上はエコだと感じる運動も、よく調べるとこうした実態が見えてくる。
スティーブン・R・コヴィー氏が言っていた言葉を思い出すー
人間には自覚と言って、自分の考えそのものについて考える能力がある。動物にはこの能力がない。
この能力があるからこそ人間は世界の万物を支配し、世代から世代へと有意義な進歩を遂げることができる。この自覚という能力があるからこそ、自分の経験だけでなく他人の経験からも学ぶことができる。また、この能力を発揮することにより習慣をつくり、習慣を変えることもできるのだ。
(スティーブン・R・コヴィー 「7つの習慣」 キングベアー出版)
本記事の冒頭で紹介した、レジ袋有料化を義務化に関する国からの通知では、「これを機にプラスチックごみ問題について考えていただきたい」とあった。
確かに、レジ袋が有料化されたことで多くの人が不便に感じ、「これが正しいことなのか」と疑問を抱いていることであろう。
トリガーとしては確かに功を奏した可能性はある。
だが、これを機に私たちはただ不平不満を言うだけで無く、再考しなくてはならない。
「どうしたら便利なものを今まで通り使い続けられるのか」ーと。
プラスチックの大きな利点は、分解しないこと、安全なことです。この特性が、人類を幸せにしてくれます。
生活を豊かに便利にしてくれるありがたいプラスチックを、使い終わった後で、正しく処理せずに捨てるから、人間に罰が当たっているだけです。便利なものは正しく使って、人間は豊かになっていくべきで、使わないと言う選択はありえません。20世紀は、生産拡大の時代、21世紀は、廃棄物処理の時代。
これを乗り越えないと22世紀の未来はこないでしょう。
(シバセ工業株式会社・磯田社長)
プラスチックを取り巻く問題だけでなく、
環境のディッピングポイント、有害大気汚染、気候変動、海水温上昇、海水位上昇、二酸化炭素問題・・・真剣に取り組まねばならない多くの課題が我々を取り巻いている。
プラスチックを無くすだとか、家畜を全て無くすだとか、車に乗らないだとか、そう言った極論は解決に導いてくれない。
人間の知力と技術力を結集して、解決策を模索することを継続的に行わなければならないのだー子孫はもちろん、人間以外の生態系を守るためにも。
私をはじめ、読者のみなさんも何からはじめて良いのかわからないだろうし、それがきっと正しい感覚であると思う。
ポイ捨てをしない、ゴミを正しく捨てる、環境を汚さない最善の方法を考える。
こうした小さな努力の積み重ねが、必ず大きな力となって未来を変えるきっかけになって行くのではないだろうか。
地球は石油惑星であるが、石油もその他の資源も有限である。
日々進歩する科学の力によって、資源の活用方法は目まぐるしく変化する。
私たちは、私たちの世代だけを幸福に過ごすのでは無く、後世に胸を張って残してあげられる世界を繋げていかねばならない。
世の中には、目先の利益だけを考える企業がたくさんある。
しかし、今回取材させていただいたA社とシバセ工業株式会社様にそのような人はいなかった。
むしろ、こうした企業は我々消費者のために「最善策」を日々模索してくれているのにも関わらず、私たちがその企業努力に気付けていないのではないだろうか。
環境、私たちの生活の利便性、その両立を目指す熱い人たちが存在している。
私たちは、こうした企業努力を見過ごすことなく、日々の生活に潜む見せかけだけの運動を見極め、真に意味のある運動を応援できる知識を探究するべきなのかもしれない。
あとがき
まず、今回の取材に応じてくださったシバセ工業株式会社様とA社様に多大なる感謝を申し上げます。
私のような無名のブロガーの質問に応えてくださり、たくさんの情報を下さりました。
その中には、私たち一般市民に知って欲しい内容があったからこそ、返答をいただけたと思っております。
私のこの記事が、誰かひとりに響いてくれることを祈って、執筆した次第です。
また、回答内容を歪曲し、都合良くまとめる記事を多く見受けるため、今回はほぼ本文ママで記載させていただきました。
実はこの記事中に紹介しきれないほどのお返事を頂いているのですが、記事の構成上、割愛させていただいております。
もちろん、国の政策に異を唱えるつもりはありませんし、此度取材に応じて頂いた企業の方々にも事前にその旨をお断りした上でお返事を頂いています。
残念ながら、関係省庁からは2週間待ってもお返事をいただけなかったため、今回は製造側のご意見がメインになりました。
今回の内容が、明日のあなたに、プラスになりますように。